第45章 僕たちのポートレート。【月島END】
誰かに、見られたらどうしよう。
そんな気持ちと、このまま放さないでいてほしい。
そんな想いがユラユラと心のなかで揺れる。
人気の少ない、階段の裏に着くと月島はスッとの手を放した。
「何、残念そうな顔してるのさ…」
「…!べ、つにしてな………!ひゃ……っ」
「してて良いよ、嬉しいから」
「え……」
不意に引かれた手。
そのまま月島の腕にすっぽりとくるまれた。
鼻を擽るのは、少しの柔軟剤の爽やかな匂いと少しの汗の匂い。
その香りがさっきまで彼がコートで戦っていた事を物語る。
(…だめだなぁ……また、)
試合を思い出しての目にまた涙がじんわりと浮かぶ。
それに気が付いた月島は抱き締めるほんの少し緩めた。
ボール一つ分の距離をあけて見下ろした彼女の瞳はとても驚いていて、そして涙を溜めていた。
「ごめ…っ、私が試合したわけじゃないのに……っ」
月島に見られて焦ったは俯いて顔を隠す。
が、両頬を月島の手が包んだ。
「月島く……っ」
「僕はこう言う時泣けないから」
「………?」
「だから、代わりに泣いてよ」
眼鏡の奥の瞳が一瞬、優しく細められて。
見惚れる間もなく再び抱き締められた。
「…っく……っ……月島、くん……」
泣いてもいいよって、許された気がした。
背中に回された月島くんの手が温かくて、大丈夫だって言ってくれてるみたいで、涙が止まらない。
「……絶対の保証はないけど、また来年も此処に戻ってくるつもりだから」
やられたままなのは癪だから。
きっと他の連中だってそうだ。
と、いくつかの言葉を月島は続けた。
そして最後にこう告げる。
「また写真…撮りにくればいいデショ」
「…………!」
その言葉には恐る恐る月島の背に腕を回した。
細身なのにしっかりと筋肉のついた身体にの胸はドキドキと高鳴った。
「……っ、」
それは月島も同じ。
自分とは違う柔らかな身体と更に密着して、鼓動が速くなるのを感じていた。