第38章 僕たちのポートレート。③
「……なん、ですか」
驚いた月島が目を丸くしながらそう言った。
まさか、彼女から自分に話し掛けてくるなど思いもよらないことだった。
「視線を、感じていたので……その、練習の邪魔になっていたら…ごめんなさい……」
は小さな声を更に小さくしてそう呟いた。
いつも周りの機嫌や視線を気にしているは自分に向く視線に昔から敏感だった。
それ故、月島のさりげないそれにもすぐに気が付いたのだ。
更に烏野バレー部最長身であり、愛想のまるでない月島の視線は悪い方に捉えられていたらしい。
月島は小さく溜め息をついた。
「別に、邪魔じゃないです。それに、先輩を見てたってわけじゃないんで」
「……そ、そうなの…?」
顔を上げたと月島の視線が初めて交わる。
「……!」
前髪に遮られることなく真っ直ぐに自分を見る彼女の視線に月島の心臓はうるさく高鳴り出す。
これが、あの写真を切り取った瞳。
これが、カメラを覗く真剣な瞳か。
(それが……)
今、自分に向けられている。
「へ、変な事言って……ごめんなさい…っ」
「ちょ……っ」
深々と頭を下げた後、は月島の前から慌てて立ち去った。
「あぁ、もう……」
吐き捨てるようにそう言って月島は眉間にしわを寄せながら頭をガシガシと掻いた。
「なんだ、さんと知り合いだったのか?」
「……!」
不意に後ろから声を掛けられて月島は驚いて振り向くとタオルを片手に持った菅原の姿。
「……いえ、違いますよ」
「いやさ、さっきさんを紹介されてた時月島驚いた感じだったからてっきり知り合いなのかと想った!」
「僕はただ……いえ、何でもないです」
「え~?何だよ、気になるじゃんか!」
文化祭の時の話は伏せておいた。
紹介された場面を見ただけであんなに感付かれるのだ。
菅原には余計な情報を話さない方がいい。
「スパイク練始めるぞ!」
澤村の声を聞いて月島が菅原に背を向けた時だった。
「でもさ、月島は気になってるんだろ?」
「……何の事ですか」
「さんだよ。俺は、」
気になってるよ。
管原のその言葉を月島は背中で受け取った。
そのまま管原の顔を見ることなく、そうですか、とだけ言葉を返して。