第35章 その歯車は彼の左手が回す。(牛島若利)
学校の校門で、彼を待つ。
展開が急過ぎて頭が着いていかない。
牛島くんと会って、初めて話してそれで。
「……」
触れられた右の頬に手を当て感触を思い出す。
大きな男の人の手。
全てを切り裂く左手であんなに優しく触れられた。
また顔に熱が集まる。
「待たせたな」
「…!」
スポーツバックを肩に掛けた牛島くんが一人校門に現れた。
校内で見掛ける時はバレー部の他の部員と一緒に居る事が多いから一人でいる姿はとても新鮮に見える。
「他の人達は、良かったの?」
「を待たせていると言ったら早く行けと部室を追い出された」
「……!そ、ですか…//」
恥ずかしいけど嬉しかった。
私の名前を出してここに来てくれた事。
何よりずっと憧れてた牛島くんが私を誘い出してくれた事が嬉しかった。
「家まで送る」
「…ありがとう」
牛島くんと並んで歩く、まだ信じられない。
バレーの事、
勉強の事、
学食で好きなメニューの事、
それから、牛島くんのお父さんの事。
お父さんが牛島くんの左利きを残そうとしてくれたから今があるのかもしれないと彼は言っていた。
人と違うものは強みになると言っていたと、遠くの空を見つめて彼は話してくれた。
率直に羨ましく思った。
そんな風に私も誰かに言ってもらえていたら、こんなに気にしなくて済んだのかもしれない。
「、もう一つの質問の答えがまだだ」
「え…?」
「決勝戦に来なかったのは何故かを聞いていない」
「……っ!」
すっかりその質問を忘れていた。
なんて答えたら良い…?
正直に話す事はイコール告白と同じ。
そんな事…言えないよ。
でも、もしも。
私の過去を受け止めてくれたみたいに。
振られてもどんな形でもいい、私の気持ちも受け止めてくれるとしたら。
意を決して歩みを止める。
「決勝戦、観に行かなかったのは私の気持ちが大きくなってしまうから…なの」
「気持ち?」
「もっと…牛島くんの近くに居たいって、隣に居られたらって…欲張りに、なってしまうから」
「そうか」
変わらない声のトーン。
振られる事を確信した。
でも良いんだ、自分の素直な気持ちを伝えられたのだから。
「欲張って問題ない、俺もお前が欲しい」
「……!?」
歯車は急速に廻り出すーーーー。
to be continued…