第35章 その歯車は彼の左手が回す。(牛島若利)
ロードワーク中にたまたま彼女を見つけた。
頭で考えるよりも先に足が彼女の元へと向かっていた。
そして、どうしても知りたかった疑問を彼女にぶつけてた。
話し始めたは何処か怯えた目をしていた。
話の内容を聞いてわかった。
俺は彼女に、傷付いた過去の話させてしまっている。
もういい、と止めようとした時だった。
「貴方に救われたの」
怯えた目をしていたの表情が柔らかい笑顔に変わる。
「…俺は何もしていない」
「貴方のスパイクが、私のトラウマを切り裂いてくれた……自分はこのままでいいんだって、いつもそれを確かめたくて…バレーを観ていたの」
そう言っては何処か申し訳なさそうに笑った。
俺のバレーが彼女を救った。
その言葉を頭の中で噛み砕く。
悪い気は、しない。
それどころか満たされている自分に気付く。
彼女の、あの怯えた目を微笑みに変えたのが自分だと言う事。
そこから生まれた新しい感情。
「う、牛島くん…ごめんなさい、急にこんな事言われても困るのに…」
俺の沈黙を困惑と捉えたは頭を下げて俺に謝罪をした。
「いや、困ってはいない」
それは違うとハッキリと否定する。
困惑ではなく、これは。
「…う、し…じまくん……?」
「すまない、俺の方こそ辛い話をさせてしまった」
「ううん…今はもう、辛くないよ」
彼女の頬に手を添えてこちらを向くように誘導する。
目と目が合ってハッキリとわかった。
俺は彼女を欲しがっている。
「このロードワークで今日は上がれる、この後まだ時間はあるか」
「え…あ、うん……?」
「そうか、ならその時間を俺にくれ」
彼女の頬に赤みがさした。
また、満たされる。
満たされたと同時に更に他の表情も見たくなる。
そんな渇き。
これは、欲情だ。