第35章 その歯車は彼の左手が回す。(牛島若利)
気付いたのは中等部三年になった頃だった。
普段は気にしていないギャラリーの中に彼女を見つけた。
他とは違う視線だと思った。
善望、
敵視、
哀れみ、
そのどれとも違う。
(あれは、)
確認、だ。
制服からしてうちの生徒と判断は出来た。
だがバレー部ではない生徒の応援は普通準決勝からだった。
と言うことは彼女は自ら望んでここに来ていると言うことになる。
バレーが好きなのか。
だがあの目は、そうは見えなかった。
「あっれー?さんじゃん」
「天童の知り合いだったか」
「だったかって…?ん?んん?」
「彼女は一回戦から観に来ている」
「え!そうなの?知らなかった~!ヘェ~物好きだねぇ」
。
その年の最後の大会の決勝戦そこで初めて彼女の名前を知った。
学年は同じ。
天童と同じクラス。
俺と同じ、左利き。
「若利くんに憧れて観に来てるんじゃないの~?」
「いや、あれはそういう類いの視線ではない」
「えぇー??そっかなぁ~?」
何かを確認するような視線。
それは高等部に上がってからも変わらずに続いていた。
変化があったのは三年のインターハイ予選決勝。
スタンドの何処を探しても彼女の姿が見当たらない。
「どうした?若利」
「いや…」
大平に声を掛けられたが理由は答えず短くそう告げた。
「若利くんもしかしてサ、さん探してる?」
「探していると言う程でもないのだが、姿が今日は見えないと思った」
「それ、探してんじゃん」
「そうか?」
「あれ?若利くん、さんの事気になってんじゃないの?」
天童に言われ、自分に問う。
探しているのならば、俺は何故彼女を探しているのだろうか?
あの視線の理由が知りたいからか?
「ねぇ、若利くん知ってる?その気持ちってのはネ…」
「?」
ピーッ!!
的確な答えが見つからないまま試合開始の笛がなる。
天童も言い掛けた言葉を飲み込んだ。
彼女へ向けていた意識をコートへと向ける。
優勝で締め括ったインターハイ予選後からしばらくして、初めて彼女と対面した。
ロードワーク中の道での出来事だった。