第30章 閉店時間まで後一時間とちょっと。（澤村大地）

「ちょっ…！！引っ張りすぎだって…！」

「あ…ご、ごめん…！」

我に返って慌てて孝ちゃんの腕を放す。
やっと落ち着きを取り戻した私を見て孝ちゃんは小さな溜め息を一つついた。

「テーピングって今から買い出し行くのか？」

「…うん、そのつもり、なんだけど」

「なぁ……良かったのか？」

「………」


孝ちゃんの言わんとしている事は直ぐにわかった。
澤村先輩が折角一緒に行くって言ってくれていたのに私は逃げるようにしてここまで来てしまった。

怖かった。

澤村先輩の隣に並んでやっぱり不釣り合いだと思い知らされる事が。
周りにそう思われてしまいそうな事が。

何よりそんな自分が惨めだって、自分自身が思ってしまう事が。


「だって…」


ポツリとそう呟いて孝ちゃんに背中を向けた。


「わ、私なんかが澤村先輩と一緒にいて良い筈ないもん…！」

「どうして？」

「だって…！！って…え？」



孝ちゃんとは違う声に私は勢い良く振り向いた。
そこに立っていたのは、


「さ、わ…むら先輩…」


ニッコリと笑顔を私に向けながら先輩は一歩私に近寄った。

「どうしては俺と居ちゃいけないんだ？」

「先輩…今の、聞いて、」


恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうだった。
今までいた筈の孝ちゃんは何処へ行ったの？！


「何に遠慮してるのか知らないけど…俺はと居たいと思ってる」

「え……？」


聞き間違いではないだろうか。
目の前のこの人は今私に何て言ったろう？

「と俺は一緒に遊んだりしたい、色んなトコ出掛けたり…もちろん部活の買い出しも」

「………！」

「、伝わった？」



夢でも見てるんだろうか。

澤村先輩が私の名前を呼んで、私と居たいと言ってくれている。




「私、なんかが…澤村先輩と一緒に居てもいいんでしょうか…」


清水先輩みたいに綺麗じゃない。

マネージャーの仕事もテキパキと出来るわけじゃない。

これと言って取り柄らしい取り柄もない。


平凡過ぎる私。