第30章 閉店時間まで後一時間とちょっと。(澤村大地)
「マネージャーの仕事、一生懸命にやってるが俺は好きだぞ」
「好……っ?!」
あまりにもサラリと言われ過ぎて聞き逃してしまいそうになった。
「部活後の自主練にも嫌な顔一つしないで付き合ってくれるだろ?練習試合でも勝ったらすげー喜んでくれるし、負けたら俺たちよりも悔しがってくれるし」
「…澤村先輩」
「そんなが好きなんだ」
私の事、そんな風に見ていてくれたなんて。
目の前が涙で滲む。
嬉しい、嬉しい。
「だから、俺の好きな人の事『なんか』なんて言うなよ」
ポンと頭に重みを感じてそれが先輩の手だと気付く。
優しいその手はそのままゆっくりと私の頭を撫でた。
「私も、澤村先輩が…ずっと好きでした」
絞り出すようにそう告げると、先輩は今日一番の優しい笑顔を私に向けてくれた。
「なぁ…俺の事も名前で呼んでくれないか?」
「も…?」
「……スガだけずるい」
「…!!////」
少しバツが悪そうに頬を掻きながら澤村先輩はそう言って私をそっと引き寄せた。
目の前には広い胸板、背中には逞しい腕がまわされる。
「呼んでみ?」
「だ…いち、先輩……?///」
「………うし//」
満足そうに背中をポンポンと叩いた後、先輩は普段の口調に戻った。
「さて、店が閉まる前にテーピングの買い出し行くべ!」
「は、はいっ!」
「ん」
「ふぇ…?」
差し出された右手。
それを私はそっと掴んだ。
もう迷わなくていいんだ、これは私に差し出された手なんだから。
陽はとっくに沈んだって言うのに、私の前の道はとても明るく照らされてるみたい。
そう思いながら私は大地先輩の手を握り返した。
END