第29章 ガトーショコラで治らない彼の機嫌を治すには。(月島蛍)
「け、蛍…?!」
「おはよ…家は変わってないんだ、まぁおかげで来れたけど」
「なんで此処にいるの…?!」
「だって僕の家の前に来てたのに僕は来ちゃいけないわけ?」
「そうじゃ、ないけど…」
蛍の方が私に会いたくないんじゃないかって思ってたから驚き過ぎて…。
「とにかく遅刻する前に学校行くよ」
「うん……」
歩きながらチラチラと蛍の様子を伺ってみてもいつもと変わらないポーカーフェイスで何を考えてるかなんて全くわからない。
「ねぇ」
「うぇっ?!何?!」
「うぇって…それが何なのさ……」
「ご、ごめん…!」
「ホントに今日から影山に勉強教えるの」
そう私に聞いた蛍の顔はいつだかに見た事があった。
いつだっただろう……?
「今日は、約束しちゃったから教えようと思う…ノートも持ってきたし…」
「……あっそう」
まただ、またその顔をする。
そのまま無言のまま学校へ着いてしまった。
怒ってる…と感じつつも歩幅が全然違う私に合わせて歩いてくれる蛍の優しさにちょっとだけホッとしていた。
放課後なるとすぐに影山くんが教室へやってきた。
ノートと教科書とシャーペンを既に抱えている姿に凄い意気込みみたいなモノを感じた。
蛍は…と姿を探すものの影山くんが来る前に出て行ってしまったみたいで教室にはいなかった。
机を挟んで影山くんと座り向かい合う。
「、この問題なんだけどよ…」
「あ、うん…これはね…」
ノートと教科書を睨み付ける様にしながら問題に取り組む影山くんに悪いと思いつつも、私は朝の蛍の顔を思い出していた。
(あの顔…いつ見たんだっけ…)
しばらくしてふと、影山くんが腕捲りした姿が目に入る。
程よく筋肉のついた腕だったが、肘を擦りむいているのか赤くなっているのがわかった。
「あれ…影山くん、怪我してるの?」
「ん?あぁ…昨日体育館の床で擦った」
まるで何でもないみたいにケロリと言う辺り運動部の男の子って感じがした。
小さい頃、今の影山くんと同じような怪我をして泣いていた忠を思い出してしまう。
(忠は、よく泣いてたなぁ…私が手当てして、それで蛍は……)
「あ…っ!!」
そこまで思い出した時、記憶の中の蛍と今朝の蛍が同じ表情だった事に気付いた。