第29章 ガトーショコラで治らない彼の機嫌を治すには。(月島蛍)
ガトーショコラ効果で治ったはずの蛍の機嫌がまた悪い。
もしかして…もしかしなくても原因は目の前で頭を下げるこの人なのだろうか。
「影山くん…頭上げて、恥ずかしい…!」
「頼む!お前だけが頼りなんだ!!」
わざわざ影山くんが他クラスの私の所に頭を下げに来たのには理由がある。
「テストヤバいと部活に出らんねぇんだ!頼む!」
確かに中三の頃テスト前に何度かノートを貸してあげたり、授業でわからないところがあった影山くんにちょこっとアドバイスした事もある。
彼はそれを思い出して此処にいるんだろうな…。
「同じクラスの奴に頼めば良いデショ、なんでなわけ?」
痺れを切らした様に蛍が口を挟む。
その隣りでオロオロしながら忠が二人を交互に見ていた。
「コイツのノート解りやすいし教え方上手いんだよ、大体月島には関係ねーだろ!」
「…あるって言ったらどうするのさ」
「か、影山くん、蛍…!」
一触即発な雰囲気に慌てて私は二人の間に入った。
「影山くん、私帰宅部だし放課後少しなら勉強見られるから!明日から始めよう!ねっ?!」
「ホントか!!助かる!」
話がまとまると影山くんはあっさりと自分の教室へと帰っていった。
蛍に一睨みきかせてからだけど…。
「…………」
「…………」
あぁ、怖くて後ろを振り向けない。
見なくてもわかる黒いオーラに背中がゾクリとする。
「蛍………?」
「…勝手にすれば」
目も合わせずそれだけ言い捨てると自分の席に戻ってしまった。
「あれは…ガトーショコラじゃ治らなそうだね…」
「忠…!ガトーショコラの事知ってたの?」
「教えて貰ったわけじゃないから何となくだけど…ちゃんから貰ったんだろうなって」
その日はそれから蛍と話すタイミングを逃したまま帰宅となってしまった。
次の日の朝もスッキリとしない気持ちで学校へ向かう。
一晩考えに考えたけど蛍に会ってなんて声を掛けたら良いか結局思い付かなかった。
そもそもなんで勉強教えちゃいけないの…。
溜め息を吐きながら玄関のドアを開けると昨日からずっと頭を離れないその人が壁にもたれ掛かって立っていた。