第29章 ガトーショコラで治らない彼の機嫌を治すには。(月島蛍)
土曜日のミニゲームは影山くん達の勝利で終わった。
そのせいなのか、はたまた別の事が原因なのか…蛍の機嫌がすこぶる悪い。
忠の話では影山くんと顔を合わせる度に突っかかっているらしい。
運動部じゃない私には部内の事はどうにも出来ないけど、少しでも蛍の機嫌が治ればと色々考えてみた。
「やっぱり…アレしか思い付かないなぁ」
翌日、早起きをしていつもの通学路とは違う道を走る。
目指す先は蛍の家。
「行ってきます」
「!」
蛍の家の近くの公園で待っていると歩いてくる長身男子が見えてくる。
ヘッドフォンをしてズボンのポケットに手を入れて歩く。
ただ歩いているだけで絵になるなんて蛍は昔からモテてたけどやっぱり格好良いんだなぁ。
「なに…なんで此処にいるの?」
「おはよう、蛍を待ってたの」
ヘッドフォンを外して首に掛けながら驚いてこちらを見ている。
「これを渡したくて」
「…?」
「昨夜作ったの、ガトーショコラなんだけど…」
「なんで急に?」
「う…えっと……」
まさか最近機嫌が悪そうだからなんて言えない。
答えに困っているとガトーショコラを受け取った蛍が口を開く。
「これ、山口とか影山にもあるの?」
「へ…?あ!!しまった…忠達の分まで考えてなかった…」
ホントは蛍にはショートケーキの方が良いんだろうけどそんな技術は私にはないし、あれこれ何が良いか悩んでいたら蛍の分しか作ってない事に今気付く。
「僕だけって事?」
「そうなる…ね」
「ふーん…」
「あの、いらなかったら…」
「いらないなんて言ってないデショ……貰っとく」
そう言うと蛍は鞄にガトーショコラをしまった。
「まぁ…ありがと」
素っ気なくお礼を言う彼の口角が少し上がっていた事を私は見逃さなかった。
機嫌、少しは治ったのかな…?
今も甘い物好きのままで良かった!!
そのまま一緒に登校する。
昼休み、友達とお弁当を食べてる時に蛍が私のあげたガトーショコラを食べてくれてるのを見た。
「月島くん手作りお菓子食べてるの初めて見た!」
「え?」
「入学してから有名だよ、月島くんに手作りお菓子渡しても絶対に受け取って貰えないって!!すごーいどんな子なんだろ?」
「……///」
友達の言葉に私は箸を止めて固まってしまうのだった。