第24章 シャワーの後で抱き締めさせて。(及川徹)
だからこの人の周りには人が集まるんだろう。
大学生になってその光は更に増したんじゃないかって思う。
「ありがとう、ございます…」
りんごジュースを私が受けとると満足そうに笑い及川先輩は私の隣に腰を下ろした。
「………」
「~♪」
「…あの」
何故、隣にいるんだろう?
気になってスコアを写すだけなのにちっともペンが進まない。
「あ、ごめん気が散る?」
「いえ…そうじゃないですけど…」
本当はそうだとは言えず首を横に振る。
「これから部誌のチェック俺がすることになったんだよね、ホラ夏が終われば代変わりだし…キャプテンがね」
「そうなんですね…」
四年生の先輩達は夏が過ぎると仕切りを三年生に任せる様に毎年なるのだと言う。
部に残る人もいれば引退する人もいる。
及川先輩が次のキャプテンだろうと言う噂は大方当たりなんだとわかった。
「て事で!終わるの待ってます!」
「あっ…!」
そこで私は漸く気が付いた。
及川先輩は私が部誌を書き上げるのを待っているのだ。
「すみません!急ぎます!!」
「ん~?ゆっくりでもいいよ」
私はそこから集中して自分のメモと部誌を交互に見ては正確に書き込んでいく。
それから5分経って及川先輩に部誌を手渡した。
「……」
「何処か…間違ってますか?」
黙々と部誌を眺める及川先輩に書き込みミスがあったのかと心配になる。
現キャプテンの四年生にはこんなにじっくり読まれた事がない。
大抵流し読みで毎日済んでいたのに。
及川先輩に至っては今日の分に留まらず、前日やそれ以前のページまで見返している。
(どうしよう…私怒られたりするのかな……)
沈黙に堪え切れず俯きながらりんごジュースを一気に飲み干した。
「ちゃん」
「…はいっ?」
「部誌はいつもちゃんが書いてるの?」
「………いえ、あの、先輩達と交代で…」
本当は嘘。
だけど字体を少し変えて記入者名も日によって先輩の名前を書いている。
まるで試合中の様な真剣な視線を向けてくる及川先輩に負けじと必死に平静を装った。