第24章 シャワーの後で抱き締めさせて。(及川徹)
「私達この後急ぎの用事があるから後よろしくね」
「わかってると思うけど余計な事他の人に言わないでね?」
「はい…お疲れ様でした」
急ぎの用事とはおそらく合コンの事。
後よろしくとはおそらく残りの雑務の事。
余計な事とはそれを私に押し付けていると言う事。
他の人とはおそらく及川先輩の事。
(まぁ、別に苦ではないけれど…)
バレーが好きで青葉城西と言う強豪高校でマネージャーを三年間務め、そのまま県内のバレー強豪大学へと進学した私は何の迷いもなく大学でもバレー部にマネージャーとして入った。
そこには二つ年上の及川徹と言うスタープレーヤーが既にいて、彼は高校の先輩でもあった。
及川先輩がこの大学に居たことを知ったのは大学のバレー部に私が入部した日の事。
同じ高校出身と言う事もあり及川先輩はよく私に声を掛けてくれた。
(要するにそれが気に入らないんだろうな…)
先に入部していた先輩マネージャーから見れば、後から入った一年に部のエースでありイケメンスタープレーヤーの及川先輩が構っているのが面白くないのだろう。
「後は部誌…っと」
たくさんのボールを磨き終えて部誌を手に取る。
体育館のすみに座りページを捲った。
一人でこうして体育館にいるのは嫌いではない、むしろ好きな部類に入るだろう。
主のいない体育館は図書室よりも静かでとても落ち着くのに、目を閉じるとさっきまで聞こえていたボールを打つ音やシューズと床が擦れる音、部員達の気合いの入った声が鮮明に甦る。
そんな不思議な空間。
7月になり蒸し暑い筈なのに、何故だか今はそれを感じないのだ。
「後は今日の紅白戦のスコアを写して終わりね」
「お疲れ様」
「え?うひゃあ…!!」
突然頬に当たる冷たい感触。
驚いて振り返ると紙パックのりんごジュースを持ってニコニコと笑う及川先輩がいた。
「ちゃんてそんな風に驚くんだねー知らなかった」
「………及川先輩」
少しムッとした顔を向けると及川先輩はすぐに言葉を返してきた。
「ウソウソ!可愛かったよ!ハイこれ奢り~」
さっき頬に当たったりんごジュースを私に渡す。
そしてまた微笑む。
高校の時も思っていたけれど、この人はいつでも眩しい。
コートにいる時はギラギラした強い光を放っているけど、こうして普段の及川先輩もキラキラしている。