第23章 一足遅れの春がとても暖かい事を僕は知っていた。(松川一静)
「花!花はまだちゃんと話してないんだからしっかり話してから来いよ?」
「ちょ…!!」
「あたしと松は…先に行くから」
ここで加奈子にさよならしたみたいに、花への恋心にもさよならをするんだ。
笑って、さよなら。
あたしは二人を未来へ送り出す。
「…………」
松川はそこまで見守ると急にの手を引いて歩き出した。
「約束に遅れるから、行くよ」
「松っ…!うん…加奈子、花、またな…!」
引っ張られながら別れを告げ、駅に向かって歩き出す二人の姿が漸く見えなくなった所で松川は歩くスピードを緩めた。
「…結構ギリギリだった?」
「…………」
「あれで…本当に良かったの?」
「…………」
振り返った松川の目に飛び込んで来たのは目にいっぱい涙を溜めただった。
「俺としては…こうやって目の前で泣いてくれんの、嬉しいって思ってるけど」
「………何それ」
「はホント不器用だよね、周りの事ばっかり考えて自分の気持ちはいつも後回しだし」
「ウルサイ…」
ポロポロと溢れ出した涙は自分でも止められなかった。
松川はの腕を引きスッポリと自分の腕の中に収める。
「まぁ、そんなだから放っておけないんだけど」
松川はゆっくりとの頭を撫でる。
それに比例するようにの涙で松川のシャツは濡れていく。
「たくさん考えたんだ…自分の都合のいい方にどれだけ考えたって最後は花も加奈子も笑ってる方が良いに決まってるって…そこに行き着くんだ」
「…うん」
でも俺はね、あの二人だけが幸せじゃ駄目だって思ってる。
「じゃあさ、は俺と幸せにならない?」
「………松?」
あれだけ止まらなかった涙が突然に引っ込んでしまった。
思いも寄らなかった松川からの言葉。
「俺はにも笑ってて欲しいんだよ」
「……////」
まだまだ寒いこの東北の春に、突如咲き誇ろうと膨らみ出した蕾。
きっと綺麗に咲く日はそう遠くない。