第23章 一足遅れの春がとても暖かい事を僕は知っていた。(松川一静)
ごくりと唾を飲み込んでゆっくりとは口を開いた。
「それ…花と松は知ってんの……?」
松はともかく、花がもしこれを知ったら?
花はどうするのだろう。
「まだ、二人には話してないの…明日伝えるつもり…」
眉尻を下げて加奈子は小さく答え俯いた。
「そっ…か……」
加奈子が上京してしまえば花巻は加奈子を諦めるのではないか。
そんな思いが一瞬の頭を過って、すぐに消えた。
(あたしは…馬鹿野郎か……)
帰り道で東京では寮に入って学校に通うと言う話を加奈子から聞いていたが返事は出来てもの頭に内容は殆んど入ってこなかった。
「じゃあまた明日ね、」
「うん、また明日」
加奈子と別れた後も同じことばかり考えていた。
(どうすればいいんだろう…)
翌日も昼休みにはいつも通りに四人揃って弁当を囲む。
ただ、の様子がいつもと違ってとても大人しい。
他の三人もこれには気付いていた。
「………」
「あー、?どしたのお前、今日…」
「いつもより元気ないけど具合悪いの?」
花巻と松川が指摘してもは何でもないと言うだけで心此処に有らずな状態だった。
「………」
加奈子も心配そうにを見つめていた。
「ワリ…あたし、トイレ寄って先に戻るな」
ヘラッと力なく笑っては立ち上がった。
そのまま止める間もなく屋上を後にする。
その様子を驚いてたまま見ていた三人は互いに顔を見合わせた。
「もしかしたら…私のせいだったりするのかな」
ポツリと言った加奈子の言葉に松川が反応する。
「加奈子のせいって…?」
「私ね、昨日……」
自分が居ても居なくても加奈子は東京に行く事をあの場で二人に話すかもしれない。
そうだとしたら、きっとそれを聞かされている花の事をあたしは見ていられない。
きっと花はショックを受ける。
加奈子が居なくなることを悲しむ花の姿なんて見たら自分が傷付きそうで。
(だから逃げんのか……ダッセ…あたし……)
屋上ではの思った通り加奈子が東京行きの話を花巻と松川に話していた。