第19章 覚えているのは藍色とレモン味と火薬の匂い。(矢巾秀)
藍色の浴衣は白い肌をとても引き立たせていたし、いつもは下ろしている肩までの髪も綺麗にまとめられていて大人びた雰囲気を醸し出していた。
「矢巾くんも浴衣なんだね、ふふっ!いつもと雰囲気が違って見えるね」
「先輩も、浴衣…綺麗ですね」
「これ、お婆ちゃんが縫ってくれた浴衣なの!綺麗だよね」
「…………」
俺は浴衣を着ている先輩の事を指したのだが、どうも伝わらなかったらしい。
「じゃあ、回ろうか」
「ハイ」
出店を回りながらもまだ何処か信じられない自分がいる。
かき氷のシロップを真剣に選んでいるこの人が何故自分の隣にいるのか。
「…うーん、矢巾くんは何にする?」
「先輩悩み過ぎですよ」
「だってたくさんあるから…」
そう言ってまた悩み出す先輩が可愛く思えて仕方ない。
結局俺はレモン、先輩はブルーハワイ。
たくさんの種類があっても何だかんだで王道を選んでしまうあたりが笑えてしまう。
「あ、もうすぐ花火始まりますね」
「もうそんな時間なんだね、ここからちょっと離れた公園からよく見えるの!移動しよっか」
「…あ、ハイ」
先輩の笑顔は俺に向いてるって言うのに、また余計な事を考えてしまう。
誰かと、来た事があるんですか。
そうやって笑い掛けたんですか。
こんな風に卑屈になってしまう自分に嫌気がさす。
公園に着く頃にはかき氷も食べ終わって公園のゴミ箱にカップを捨てる。
「やっぱり穴場だ!人がいないっ!ここね、見つけてから誰にも教えてないんだよ」
「…え?」
「矢巾くんが初めてなんだ」
内緒だよと付け加えて小さく舌を出す先輩。
その舌がブルーハワイの青で染まっていて思わず笑ってしまう。
「っぷ…先輩、舌が…ハハッ」
「えー?あ、もしかして青い?!」
「ハイ」
「ブルーハワイはこれがあるんだよなぁ…でも矢巾くんやっとちゃんと笑ってくれたね」
「え?」
指摘されて気付く。
先輩が誘ってくれて2人できた祭りだって言うのに?
俺は笑っていなかった…?
「すいません!先輩…楽しくないとかじゃないんです、寧ろ誘われた時は信じられないくらい嬉しくて!俺、30分も早く着いたりして…!」
「矢巾くん30分前に来てたの!?」
「いや!あ、はぁ…まぁ…」
勝手に墓穴を掘った。
格好悪…。