第19章 覚えているのは藍色とレモン味と火薬の匂い。(矢巾秀)
(30分も、早く来てどーすんだよ…俺…)
17時30分。
履き馴れない下駄に着馴れない浴衣。
約束の時間より30分も早く着き過ぎた自分。
ここまでの経緯に至る発端は今日の16時に遡る。
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「お祭り…ですか?」
「うん、良かったら矢巾くん一緒に行かないかなって」
「バレー部皆で行くとかですか?」
「あ…ううん、私と矢巾くんって意味なんだけど…ダメかな?」
「え…!?」
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初めは冗談かと思った。
先輩が俺なんか誘うわけないって信じられなかったけど、少し恥ずかしそうに笑う目の前の先輩を見ていたら冗談じゃないんだって伝わってきた気がした。
嬉し過ぎて浮かれて、30分も早く着いた時改めて冷静になった。
先輩は、モテる。
及川さんが何度もちょっかい出してる所を見たこともあるし、俺達2年からもその下の1年からも慕われてるマネージャーだ。
俺はバレー部での事しか知らないけど、きっと部活以外でも先輩の周りにはたくさんの人がいるんだろう。
(どうして、俺を誘ったんだろう…)
マイナスな事ばかり頭を過る。
今日だって先輩は他の誰かに誘われたんじゃないんだろうか。
(及川さん、とか…?)
あの余裕たっぷりの顔が浮かぶ。
それを頭を思いっ切り振って掻き消した。
(バカか俺は…!こんな時まであの人の事考える事ないだろ…!!)
「矢巾くんっ!」
「…っ!!」
及川さんの余裕顔がやっと頭を離れた頃、待ちに待っていた人が目の前に現れた。
「………///////」
「早いね!矢巾くん、もしかして結構待たせちゃった?」
「………///////////」
「おーい?矢巾くん?」
「……っうわ!はい!」
俺を覗き込む様にして顔を見上げる先輩に驚いて声を上げてしまう。