第19章 覚えているのは藍色とレモン味と火薬の匂い。(矢巾秀)
「矢巾くんは色々考えちゃう子なんだろうなって、部活中に時々思うの」
ハッとして見つめた先輩の顔はとても穏やかでしっかりと俺を見つめていた。
「軽く振る舞ってても何となく追い詰められてる顔をする時があるから…違うかな?」
「、先輩………いや、多分そうだと思います…」
精一杯の強がりで『多分』と付けた。
本当は多分どころじゃないのに。
「及川さん、みたいに俺も皆を最大限に活かせるトスを上げられる様になれるのかとか…考えてます、時々」
これも強がりの『時々』。
本当は常に考えてる。
先輩が偉大過ぎる(プレーは)と後を引き継ぐ身は辛い。
必死に背中を追ってもまだまだ影すら見えてこないのだ。
空が光ったかと思うと後からドンッと大きな音が鳴り響いた。
「花火始まったね、綺麗」
「………」
「及川くんみたいにとか考えなくていいんじゃないかな」
「先輩…」
「及川くんは及川くん、矢巾くんは矢巾くんのやり方があるんじゃないかな…少なくとも私は矢巾くんにしか出来ないバレーがあると思うし、そんなバレーが観たい」
そう言うの顔は花火の光に照らされてとても綺麗だった。
俺らしい、俺にしか出来ないバレー…か。
「もしかして先輩、今日は心配して誘ってくれたんですか?」
「それも少しはあるけど…矢巾くんとお祭り楽しみたかったから」
「…///そう、すか」
ドンッと言う音と共に遠くで歓声も聞こえる。
卑屈になって甘えてる場合じゃない、来年の今頃にはもう先輩達はコートにいないんだから。
先輩だってベンチにいない。
「先輩、ありがとうございます…ちょっとスッキリしました」
俺がそう言えば、先輩は花火にも負けないくらい眩しい笑顔を見せてくれた。
(好きだなぁ…………)
思わず口に出しそうになった想いをグッと噛み締めて飲み込んだ。
「花火今ので最後みたいだね、うーん!夏って感じ!あ、でも来月の合宿が始まるともっと夏を感じるかも」(笑)
「俺は去年を思い出すだけで吐けそうっすよ…」
今はまだ、言う時じゃない。
でもいつか、真っ直ぐに先輩の目を見て伝えられる様に。
END