第8章 池田屋事件(弐)
「ちくしょう…ちくしょう…!」
「平助…!」
木の板に寝かされうなされている平助。その姿は痛々しくて、見ていられない。
「潤、千鶴。総司は俺が運ぶから、ここにいる怪我人の手当てしてやってくれねぇか?」
そう言って沖田さんを担ぎ、平助と同じように木の板に寝かせてくれる。
ふと現れた左之さんにそう言われ、
「…あれ、左之さん達四国屋のほうじゃ?」
「こっちが本命って伝令を千鶴がしてくれてな。」
「そっか…ありがとう、千鶴ちゃん!」
「そ、そんな!私はただ、皆さんの役に立ちたくて…。」
「…君は、もう充分役に立ってるよ…いい子だね、後でいっぱい…褒めてあげ、る…。」
「…沖田さん?」
「…大丈夫だ、心配すんな。気絶しちまっただけだ。それより、早く行ってやれ。」
「は、はい!行こう、潤。」
「え?お、おう…。」
俺と千鶴ちゃんは、怪我人の救護の為あちこち走り回り、屯所に帰る頃には朝日が登り始めていた。
帰ってきてからというもの、俺は風間さんに言われたことが頭から離れなかった。
“貴様は同胞に刀を向けるのか?"
あれは、一体どういう意味なんだ…。
あの言い方…まるで俺が鬼みたいじゃないか…。
それに、俺がこの世界の住人じゃないって、まるで分かってるような口ぶりだった。
「…俺は…人間じゃ、ねぇのか…?」
今まで普通に学校に行って、勉強して、友達と遊んで、部活も頑張ってきたのに…ただの、普通の女子高生だったのに。
「…分かんねぇよ…俺は…俺はどうしたらいいんだよ…。」
ここに来て初めて弱音吐いたわ。
沖田さんもあの会話聞いてたろうし、怪我治ったら聞いてくるよな…。
そんなことを思いながら俺は、誰も居ないこの部屋で一人静かに泣いていた。
そのことを外で聞いていた人物が居たなんて、その時の俺は知る由もなかった。