第6章 ピアノの音(赤葦 京治)
涙が止まらないんだよ。
貴方のことを考えるたびに涙が出て、
切なくなって、苦しくなって
怖いんだよ。
「桜?」
私の顔を見て心配する京治。
「....」
呆然と座り込んで遠くを見ている私。
「帰ろう?...俺もう部活行かなきゃ...」
ハッと我に返ったように目に光を持った私は笑って
「...京治。いいよ?いってて。」
京治はふるふると首を横に振った。
「桜が動くまで、ここにいる。」
教室で佇む男女。そして先生の声が響く。
「赤葦。鍵任したぞ?」
書類を山積みして職員室に持っていった。
「はい。分かってます。」
ニコリと微笑んで私の頭を撫でた。
「...けーじ...っ」
我慢ならない欲望をぶつけようとすると
京治は深くキスをしてきた。
「ん...け、...じっ.,.んんっ...」
自分の頬が火照る。夕暮れの五時。教室で幸せに浸る。男女。
「っ...泣いてない?」
瞬きをすると瞼に生暖かい涙がたまった。
「..ふ、あん、で」
なぜか知らないけど、ボロボロと涙が出てくるのがわかる。
「京治が、好きすぎて」
不安なんだよ。いつ、京治がどこかにいくのか、こわいの。
言いたかったのに、言えなかった。