第1章 ノクターン
本来、見学者用スペースってのがある。
けど、っちは森山センパイや小堀センパイとも顔見知りみたいで
コートサイドで見学をしている。
「黄瀬〜!!(リ)ッバーン!!おっそーい!!」
「ぅあーい!!」
こっちはまだ頭痛薬が効き始めたばかりだってのに。
早川センパイ容赦ないっス。
集中力が高まると時間の感覚が無くなって、
終わった時にはいつも何倍もの速さで時間が流れていた気がする。
バッシュのスキール音。
ボールのドリブル音。
全てが無になる瞬間がある。
自分の鼓動だけが聞こえて…
一呼吸置いて、瞬きを上げた瞬間。
オレは生まれ変わる。
視線の先にあるゴールを見据え、視界に入る味方と敵。
その動きがスローモーションに見えて、ドリブルやターンを繰り返して
一気にペネトレイトでゴール前に上がっていく。
ボールをゴールへ沈める為に踏み切れば、羽根が生えたんじゃないかって思える滞空時間。
ふわっと身体が浮くとボールは自然とゴールへ吸い込まれていく。
着地と同時に“音”が蘇ってくる。
「黄瀬〜、いきなり本気出すなよ。」
森山センパイが眉を八の字にした。
「頭痛いの治ったか?」
「笠松センパイ…もう、大丈夫っスよ!」
「ならガンガン行けッ!」
笠松センパイの言葉に「ちょっと〜!!」なんて森山センパイの声が聞こえた。
外は相変わらずの雨。
だけど、体育館へ吹き込む湿気を含んだ冷んやりする風は心地いいっス。