第3章 Candy Rain
“、今度さ…旅行に行かね?”
家まで送ってくれた海斗は別れ際に、1泊2日の旅行を提案してきた。
お風呂を済ませ、後は寝るだけ…だと言うのにその事が頭から離れない。
どうにかして断る口実を探している自分が居る。
翔一に話してしまえば不安になるかもしれない。
だけど、断る事があまりにも不自然に思えてくる。
そんなはっきりしない自分に嫌気がさした時だった。
ある特定の人物からの着信をつげる音が鳴り響いた。
【今吉翔一】
名前を見ただけで自然と口元が緩んでしまう。
「おかえりなさい。」
『ただいま。』
関西訛りの翔一の声が耳に響く。
このやりとりが翔一のお気に入りらしく、
いつも「新婚さんみたいやな。」と声が優しくなる。
「今日も遅くまで練習?」
『せやな…けど、今は風呂かて入って後は寝るだけやで?』
「私も後は寝るだけだよ。」
『ワシら気が合うな。』
「そうだね。」
他愛のない会話。
それさえも愛しく思えるから不思議だ。
海斗ほど付き合いが長い訳でもない。
それでも翔一は私の心を掴んで離さない。
『なんか悩みでもあるん?』
この人はどうしてこんなに解ってしまうのだろう。
私は携帯を片手に苦笑いをした。