第3章 Candy Rain
海斗との帰り道。
彼は水族館の話に盛り上がっていたけど、
海斗から翔一の名前を聞くたびに気分が落ち込んでいく。
手を繋いでも思い出すのは翔一の手の温もりや感触ばかり。
別れなきゃいけない…それは分かっている。
翔一にも彼にも私のしている事はあまりにも不誠実過ぎる。
じゃあ、どっちと?
自分の心に聞いてみれば返ってくる応えはもう判っている。
精一杯の勇気を振り絞って、震えそうになる声を抑え明るく海斗を呼ぶ。
「ねぇ…海斗…。」
「どうした?」
小さい頃から変わらない海斗の優しい笑顔。
この笑顔を見るとさっきまで決心が揺らいでしまう。
「水族館楽しみだね。」
思ってもいない嘘を吐いてしまう。
「だろ?俺もすっげぇ楽しみ!!」
まるで子供みたいに無邪気にはしゃいで私に抱きついて来る。
「ちょ…海斗!」
私の抗議の声に海斗が目をまん丸にする。
「なんだよ?」
「人が見てるから…離して。」
「は?何言ってんだよ。別に見られたっていいじゃん。
お前は俺の彼女だってみんなに見せびらかしてぇの!」
“俺の彼女”と言う言葉に胸がズキン…と痛んだ。
(ああ…ダメだ。涙出そう。)
翔一を好きだと思う気持ちを隠せそうになくて。
涙が溢れてくる。
私を抱きしめる海斗の腕も、眼差しも。
今は全部…翔一と重なってその思いは募っていく。