第3章 Candy Rain
「なぁ…コレ。3枚あるんだけど、行かね?」
さすがのワシも耳を疑った。
海斗がヒラヒラとさせとる紙切れは水族館の入場券。
「水族館?」
「そ。水族館。期限もけっこう先だし。翔一の休みに合わせてさ。」
の顔を見ると目が合うた。
それはほんの一瞬やけど“好きや”と言われとるような気分になった。
直ぐに俯いたは気まずそうにした。
「ええよ。」
この際、一緒に過ごせるんならコイツが一緒でもかまへん。
そう思うたワシは了承の返事をした。
ワシの返事を待って、も了承の返事をした。
海斗はご機嫌に鼻歌を歌いだした。
「チケットは当日に渡すな。翔一も休みが分かったら教ろよ。
は俺が迎えに行く。どうせ小母さんにも挨拶しときたいし。」
ワシの目の前で繰り広げられる恋人同士の会話。
アイツがに優しく微笑む姿が癪に触る。
ワシかて…ほんまはの事…
ワシが居る手前、は海斗に甘い態度をとる事は無い。
漂い始めた甘い空気をぶち壊してやりとうなってワシはわざとガタンっと音を立てた。
突然響いた物音に驚いたのかの視線がワシに移る。
「お熱いことで。」
どことなく冷めた声色なのは自分でも分かった。
アイツの目の前でに触れたくなったワシは、
の髪にそっと手を伸ばした。
まるで髪を梳かすように指先を通せば、の瞳が揺れた。
「ゴミ…付いてたわ。」
アイツに負けんと優しく…いや、違うわ。
愛しさを込めて微笑む。
ゴミが付いとったなんて嘘に決まっとるやん。
その嘘はワシとだけが気付けばええ。
ワシの行動を気にするでもなくアイツはケタケタと笑いよった。
ほんま…人が良すぎるわ。