第3章 Candy Rain
「眼鏡のレンズが濡れるし。」
そう言って苦笑いを浮かべたあの人。
普段のあの人からは想像がつかない様な表情に私の胸がキュンとなる。
頬を伝う雫をハンカチで拭おうと手を伸ばせば、
あの人の大きな手にギュッと掴み止められた。
「アカン。もうガマンの限界や。」
そっと重なった唇から伝わるあの人の体温。
こうやって唇を重ねたのは何度目だろう…
あの人とキスを重ねて行く度に考えるけれど、
甘く痺れるような感覚に私の思考は溶けるばかり。
唇から伝わるあの人の体温。
その体温が離れていく寂しさに思わず胸元のシャツを掴んだ。
「そない可愛いことされたらアカンわ。」
温かくて優しい腕が私を包む。
止めどなく降り続く雨の雫は紫陽花の花を濡らし葉の上を転がり落ちる。
ひっそりと佇む小さな公園で身を隠すようにして繰り返される逢瀬。
青や紫…雨の日に彩りを添える紫陽花に囲まれた場所であの人過ごす一つ傘の中。
たった一つの傘が作り出す空間は二人にとっての刹那。
それでもその存在を確かめ合うように見つめ合いキスを繰り返す。
触れ合う瞬間の高揚感。
裏切りという名の背徳感。
それよりも確かな思いに私達は秘密を重ねて行った。