第2章 相合い傘の約束
寝室の窓から空を眺めればいつしか降り出した雨。
「紫陽花を見に行きませんか?」とお誘いをしたのはもう随分と前の事です。
凛々蝶様のシークレットサービスをしている僕の自由がきく時間などごく僅かです。
社会人である彼女も然り。
正にすれ違い…とも言える状況で交わした約束など何時果たされるか分からないのです。
それでも、彼女は僕との約束を忘れたりはしません。
そんな些細な事に僕の胸は温かくなり、
彼女を愛おしく思うのです。
規則正しい寝息に、リビングへと腰を上げた僕の身体に僅かな衝撃を感じました。
振り返るとその正体が直ぐに理解出来ました。
「帰るの?」
不安そうに瞳を揺らした彼女が僕の服の裾を掴んでいます。
「いえ。気持ち良さそうに眠ってらしたので、起こしてはいけないと
リビングへ移動しようとしたのです。」
小さい子供に言い聞かせるように目線を合わせるように屈んで顔を近づけました。
「手を…繋いでて。」
そっと差し出された彼女の手を握ると、また安心する様に目を閉じる彼女。
ほんの少しの沈黙の後、彼女は目を閉じたまま僕に話しかけてきました。
「本当は…貴方に伝染るから、帰ってもらわなきゃいけない。
それは、分かってるのに。双熾さんに会えた事が嬉しくて、この手を離したくなくなる。
そんなワガママな私を…今日だけは許して?」
こんな事をワガママだと思っている貴女はなんて優しい人なんでしょうか。