第1章 ノクターン
本当は持って来ていた傘をロッカーへ隠した。
「ちゃんと送ってけよ?」
「大丈夫っスよ!」
「黄瀬に襲われたら防犯ブザー鳴らせよ?」
「チョ…!センパイ!!!」
っちの傘を開くとオレはそっと手を引いて傘へ招き入れた。
「肩…濡れて無いっスか?」
「うん…大丈夫。」
ほんの少しだけ頬を赤くして俯いたっちが可愛い。
「今日は、ゴメン。変な事言って。」
「ううん。」
「だけど、オレ…ガマンしてるように見えて。だから…。」
「分かってる。私もね…黄瀬君の笑顔見る度に無理してるように見えて。
なんでガマンしてんのかなって思った。だけどさ、それが自分と重なって
八つ当たりしちゃったんだよね。ゴメンね。」
パタパタと傘が雨音を弾く音だけが大きく聞こえる。
今隣にいるっちの呼吸を微かに感じる度に大きくなる鼓動が、
雨音が無いと伝わってしまいそうで恥ずかしくなる。
「オレ達…似た者同士なんスかね…。」
「うん…そうかもね。」
「だったら…コレも同じっスか?」
オレは立ち止まってっちの華奢な手を掴んだ。