第1章 ノクターン
っちの瞳が揺れて、そこに映し出される自分のシルエット。
握ったままのっちの手のひらをオレの心臓の上に当てる。
ドクン…ドクン…
早鐘を打つ鼓動はっちの手のひらにも伝わってる。
「オレ、こう見えて結構貪欲なんスよ。好きな人やモノは誰にも譲れない。」
恥ずかしそうに頬を染めたっちがオレの胸から手を離そうと力を込めたのが分かった。
だけどその手を離したくなくて手首を掴んで引き寄せると、
腕の中に閉じ込めるように傘を持つ手を背中に添えた。
「ちょっと…離してよ。」
「イヤっス。」
「だっ…誰かに見られたら…」
「こんな雨の日に傘をさしてるのに誰にも見えないっスよ。」
きっと…キスをしても傘が隠してくれる。
「ホントの黄瀬涼太を見せるから、っちもホントのを見せてくれないっスか?」
「え…?」
「雨は嫌いだけど、この雨のおかげでっちと出会った。
こうやって一緒に傘に入って。今日はオレの人生初『相合い傘』記念日っス。
オレの初めてを奪った責任とってほしいっス。」
「え…ちょ…
“イヤなんて受け付けないっスから”
そっと唇を重ねると静かに閉じられた瞳。
響く雨音はショパンのノクターンの様で。
少しだけ…
雨が好きになりそうな予感がするっス。