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相合い傘

第5章 短編詰め合わせ✳︎


夢は必ず叶うなんて、嘘だ。

夢を叶える道のりは、辛く、苦しく、
時に、逃げ出したくなる。



「DREAM」





夕方5時。
ちょうど行きつけのバーがオープンする頃、私はいつもの席に座る。
カウンターより一つ後ろ、ドラム缶を改造したような簡易なテーブル。簡単なウッドチェア。
ここが私の特等席だ。

「またそこ?たまにはカウンターに来たら?」

「そう思うなら、いい加減撤去したら?このテーブル」

正確には、私たちの特等席。




サングリアを頼む。
このお酒は、ワインが苦手な私に彼が教えてくれたもの。



ドアが開いた。

「濡れちまった!マスター、拭くもの貸してくれないか?」

来た。ジタン・トライバル。
ドアが開くと、ザーッという音が店に響く。
先ほどまでは降っていなかった。雲が空に張っていただろうか。今日は空を見上げなかった。

「よー!たま。急に雨に降られちまった。隣、いいか?」


タオルで体や髪を拭く。
サラサラの金色の髪と、緑の瞳にかかる長いまつげに水が滴り、彼から色気が醸し出される。
やはり、いい男だ。
最後にしっぽをフルフルと振ると、私の向かいに彼は座った。

「マスター!同じやつね!」

サングリアで乾杯する。



このドラム缶のテーブルは、このバーがオープンしてからしばらく使っていたものだ。
オープン当初から通っていた私はこの席が心地よい。
ジタンとはその頃からの顔なじみで、私がいれば必ず隣で酒を交わしてくれる。

マスターはこの店を大きくする夢を叶え、今では店内はオシャレに改装してある。
だけど1つだけこの席を残してあるのは、夢はまだ終わらないって自分に言い聞かせるためだという。
それだけ聞けばきな臭い理由だけど、マスターの目を見れば、本気だって解る。
次の夢はなんだろう。2号店だろうか。




「... ... 元気ないなぁ。たま。何かあったのか?」

珠実はいつものように振る舞ったつもりだった。

「すぐに解っちゃうね。ジタンは」

「俺はいつもたまのこと考えてるからなー」

ふるふるとしっぽを振りながら、その大きな瞳で下から見つめてくる。
自分をかわいく見せる方法を知っている。
やな奴。



「... ... うまく、いかなかったのか?」

「... ... うん」




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