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相合い傘

第1章 戦国無双4/藤堂高虎


6月。外ではしとしと、雨が降り注いでいる。

稽古場にいるはずの武士たちも今日は休み。
奮起した声は響いてこない。城内は静まっている。
政務を執る者以外は自宅に帰り、家族奉公していることだろう。

この雨が恵の雨となり、民が作る稲や野菜が実りのいいものとなりますように。
今日の雨粒は大きい。
これが、神の怒りとなり害を与えませんように。




珠実は自室の障子を開け、外を見つめていた。
しとしとと降り注ぐ雨をひたすらに眺めていた。
外に羽ばたきたいと、願っていた。

珠実は有力な武士の娘であった。
父や兄に憧れて、功を取りたいと訓練に参加したこともあった。
しかし女性の宿命か、天野氏の元へ嫁ぐこととなる。政略によるものであった。

旦那様も、家臣たちも、世話人も、皆優しい。
だけど世は乱世。なにかあってはと部屋に閉じ込められ、好きでもない人とただ毎晩床を共にするだけの毎日。
求められるのは、ただ天野の世継ぎを作ること。
珠実には退屈で、苦痛で、しょうがなかった。



曇天の空を見つめる。
すると縁側にアマガエルが1匹、上がり込んできた。
かわいい来客はひょこん、ひょこんとこちらに向かってくる。
退屈している珠実にとってはそれだけで面白く胸が躍った。
アマガエルはひょこひょこと近づき、珠実の差し出した手のひらに乗った。

「雨が嬉しいの?」

珠実はアマガエルを見つめる。小さくてくりっとした丸い目の彼が、手のひらで喉を鳴らしている。


彼は急にくるんと向きを変えながら、庭の方へ全速力でひょこひょこと去っていった。縁側を下り、雨の降る中へ帰っていく。


「珠実様」

振り返ると、そこには天野氏の家臣、藤堂高虎が佇んでいた。

「蛙と、遊んでいたのですか。手を見せてください」

高虎は珠実の横に跪くとアマガエルが乗っていた手を掴み、眼前で手のひらを見回している。

「濡れてますね。蛙には毒があると聞きます。手を洗いましょう」


彼は立ち上がり、珠実に手を差し出した。
乾いた方の手で、彼の手を掴んだ。
彼の温もりが、優しい。
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