第3章 戦国無双/石田三成
珠実は夕飯の下ごしらえのため台所に立っていた。
6月が旬の緑の野菜たちを中心に、毎日飽きないよう工夫を凝らしながら献立を考える。
皆が健康に過ごせますように。
友が戦で、勝てますように。
後ろで床の軋む音がする。
「私も手伝うよ、いつもありがとね」
「おねね様!ゆっくりなさっててください!」
「いいのいいの。私もできることをやらないとね」
珠実は、石田三成、加藤清正、福島正則らとともに、幼い頃から秀吉、ねね夫妻の元で子飼いとして育てられてきた。
4人はいつでも一緒だったから、珠実も3人にくっついて、勉強したり稽古をしたりした。
でもどうも抜けていて、駄目だった。
珠実は秀吉の世話人として働く事となる。
今では珠実の料理の腕は、誰よりも優れていた。
ねねは時間があれば、夫や将のためにこうやってご飯を作る。
おねね様も願いを込めている。
秀吉様が、豊臣の皆が、戦に勝てますように。
皆で幸せになりますようにと。
いくら料理の腕を上げても、おねね様の作るおにぎりには敵わない。
あの優しい味は、どうやったら出せるようになるんだろう。
また、後ろで床の軋む音がする。
「おねね様!いらっしゃったのですか」
その声は、清正だ。
「清正ー!たまには一緒にご飯でも作る?」
「い、いえ、とんでもない... ...今日は、たまに用があって来たんです」
清正は顔を赤くする。
彼は母代わりであるねねに好意を抱いている。
清正は台所にいるおねね様が一番好きなのだと、正則は言っていた。
きっと彼の目には、今もっともおねね様がキラキラして映っているのだろう。
「俺の槍に刃こぼれができたんだが... ...明日にするか」
清正、正則、三成ら子飼いの3人は、決め事をしていた。
街に出るときは珠実を誘うこと。
そして、残りの2人にも声を掛けること。
彼女を誘うのは、普段街に出れない珠実が喜ぶから。
残りの2人を誘うのは、抜け駆けしないため。
「たま、いつ戦になるかわからないんだから清正と行っておやり。後は私がやっとくね。帰って来る頃が、食べ頃だと思うから」
ねねはにっこりと微笑んだ。