第2章 戦国無双/織田信長
「敵襲!同盟国の裏切り、奇襲です!」
突然の出来事だった。
皆が寝静まる頃に夜襲を受ける。
時は乱世。
私は一国の主の妻。
「敵とも同盟を結ぶ尾張の信長が攻めてくれば、勝ち目はないかと... ...!」
枕元で叫ぶ伝令兵の声。
隣で慌てふためく殿。
バタバタと騒がしい音が響く城内。
もう後戻りはできない。
退屈な人生に幕を引けるのなら、それもいい。
「珠実はここにいなさい」
殿は甲冑を身に纏い、自ら出陣していく。
私はさっと死装束に着替え、短剣を腰に差し、その時を待つ。
膝元には、信長に貰った一輪の花を置いた。
先日届いた花は、私の好きな赤の花。
これを私の、別れ花にしよう。
やがて屋敷に火が廻る。
体が熱くなっていく。
次第に汗が滴り落ちる。
でも不思議と、逃げだそうとは思わない。
そのとき空で雷が鳴った。
そういえば、昼間は雲も見当たらず風流な夜空が期待できるかと思っていたのに、今宵は月が隠れていた。
まるで私を救うかのように、突然の豪雨が屋敷に降り注ぐ。
火の勢いが弱まっていく。
雷に交じり、近くで馬の轟く声がする。
「姫!殿が、討ち取られました... ...!」
いよいよ時が来たか。
私は短剣を抜いた。
目を瞑る。
さようなら、信長。
突然、短剣を持つ手を叩かれた。
目を開けるとそこには、ヒーローがいた。
「ゆくぞ、たま」
会いたかった顔。
会いたかった声。
会いたかった人が、目の前にいる。
信長は私を両手で抱えた。
まだ幾らか残り火が燃ゆる中、2人は馬の元へと歩む。
私は馬に乗せられた。
彼は私の後ろに跨がる。
信長の掛け声と共に、馬は走り出した。
高い位置からしばらく暮らした街を見下ろした。
私がいた屋敷が、遠く遠くへと離れていく。
雨は降りしきるのに、私は信長に包まれて、温かい。
「私、やり直せるかな」
珠実は温もりを感じながら、ひたすらに涙した。
「是非も無し」
信長の答えは、私次第だという事。
死装束のまま、愛する人に包まれている。
私は生まれ変わった。
あの相合傘に込めた自身の願いを、叶えよう。今度こそ。
完