第9章 特別編 1
携帯を手に取ってみると、それは電話で。しかも、よく知った、けれど、久しぶりに見る名前が表示されていた。
「あ、優奈~? 良かったぁ、すぐ出てくれて!」
電話の主は、中等部3年時に同じクラスだった、菊丸英二くんだった。
「どうしたの、こんな朝から」
今日、テニス部見に行ってるんじゃないの? と、問い掛けると、遠くで打球音が聞こえる。練習中にかけてきたのか、と思って呆れていると
「いや、来てるんだけどさ、優奈にお願いがあんだよね!」
「お願い?」
「そ! 実はさ、これから急に、他校と練習試合やることになったんだって。そんでさ、優奈も来ない?」
見にこない? っていう雰囲気で誘っているけど、これは違う。
「……それって、臨時マネってこと?」
「あ、えっとー……」
「やっぱり。」
「ごめん……やっぱりダメかにゃ?」
ダメってわけじゃない。寧ろ予定がなくなって、時間を持て余しているくらいだし。
「別に、ダメじゃないけどさ……」
急だなって思ったんだよ、そう伝えると、ごめん、と再び謝られた。
テニス部の彼とは、席が近くて仲が良かったから、よく他校との練習試合を青学で行う時なんかに、臨時のマネージャーみたいなことをしていた。青学テニス部、強豪なのに、マネージャーいないから。でも、テニスに関してら専門的な知識があるわけじゃないから、言われた通りに記録用紙に記録を書いたり、監督・顧問の先生たちへのお茶出しをしたり、基本的には雑用だったけど。
だけど、たとえ臨時でもマネージャーに呼ばれる回数が増えてくると、流石にテニスのルールくらいは覚えなきゃという気になる。図書館で、初心者用のテニス教本とかを借りて、ルールや審判の仕方なんかを学んだ。その結果、昨年の夏には、本当のマネージャーみたいに、記録をつけたり、ドリンクを作ったりしたこともあった。それでも、私はあくまで臨時のマネージャーであって、正規のマネージャーではない。だから、全国大会も、当然マネージャーとしてではなくギャラリーとして見に行った。