第2章 貴方の街のパン屋さん……土方 歳三
土方
『1つ聞いてもいいか?』
『何ですか?』
土方
『どうして意志を継いだんだ?』
彼女は何かを思い出すかのような顔をしては、俺と向き合った。
『きっかけは……土方さん、貴方です。10年前初めて会った時、貴方は祖父の食パンを見て最初は怪訝な顔をされました。』
土方
『見ていたのか……。』
『えぇ。ですが……一口食べて、貴方の表情は変わりました。凄く幸せそうな顔をされたんです。それを目の当たりにして、私もやりたくなりました。人を幸せそうな顔をさせられる小麦作りを。』
安易な理由ですが……と、笑っていたが今になって源さんの言おうとしていた意味を理解した。
土方
『あ、そうだ。パンを持ってきた。言葉の通りに発展途上だがな。』
『食パン‼』
土方
『あの小麦粉には、シンプルなものがいいと思った。今の俺の集大成だ。だが、今に満足しているわけではない。兎に角、食べてみてくれ。』
『いただきます。』
彼女は、パンを一口食べた。そして……綻んだ口元。
『美味しいです。』