第2章 貴方の街のパン屋さん……土方 歳三
井上
『このパンを持っていったらどうだい。』
土方
『パンを?……分かった。』
源さんの提案もあり、俺は次の休みに会う約束を取り付けた。それまでの間、今の俺がやれる最高のものを作り上げた。
だからと言って、今に満足しているわけではない。逆に、もっと精進しなければと思わされた。
季節は6月……今年の実った小麦畑を眺めた。金色色の風景に圧倒された。
真実は異なるが、かつての【黄金の国ジパング】を彷彿させられるものだ。
土方
『美しいな……。』
?
『でしょう?』
土方
『あ、あんたは……。』
『この前は、ご来店ありがとうございました。それで、如何でしたか?』
俺を試すような視線。きっと、俺の言葉でどうなるか決まるのだろう。
俺は、彼女を見つめた。
土方
『俺も、ここの小麦も……まだまだ成長しないといけない。そう思わされた。』
『ご名答です。』
俺の言葉に、どうやら満足してくれたようだ。
『誰もが、美辞麗句を並べます。ですが、祖父の作った小麦にはまだまだ及ばない。でも、絶対に作ります。』
確固たるその意思を帯びた横顔を見て、やはり美しいなと思った。