第10章 カッコイイこと言えないけど 【影山飛雄】
「中華まんも美味しいね」
そう言いながらもう一口とねだってくる。俺は再度中華まんを差し出した。春乃はパクリと食べて美味しいと言う。
「お前のもくれ」
俺は肉まんを持っている春乃の手を取り、上に持ち上げて肉まんを食べる。
「肉まんも美味いけど、俺は中華まんだな」
「ちょいとお二人さん、俺もいるってこと忘れるなよ」
「忘れてないよ」
「それならいいけど」
肉まんを食べ終わり、また3人で歩き出す。日向は雪ヶ丘からこっちに引っ越して来たらしい。だから高校のときみたいに自転車で帰る必要もない。
「あ、それじゃあ俺こっちだから!じゃあな春乃ちゃん!影山!」
「バイバイ!」
日向と別れ、俺と春乃と2人になる。
「ねぇ、飛雄」
「あ?」
「私、しばらく日本を離れようと思う」
「は?」
春乃の言葉に頭の思考が停止する。
「何でだよ」
「私、トレーナーになりたくて。それで研修でオーストラリアに行くことになったんだ」
「研修?何だよそれ。そもそも外国に行く意味あんのかよ?日本ででもできるだろ?」
「外国のトレーナーの人から色んな事を吸収したいの。だからしばらく日本を離れる」
少しずつイラついていくのがわかる。少しずつ、少しずつ。
「だからね、飛雄…」
「好きにしろよ。俺には関係ねぇ」
何か言おうとした春乃の言葉を遮り、声を放つ。
「飛雄…」
春乃も俺も、それから声を出さなかった。
春乃と険悪化してから数日。あれからろくに話もしていない。言葉を交えるとしてもそれは必要最低限の事だけ。春乃は何回も俺に話しかけてくれるけど俺はそれを突っぱねてる。
今日も同じ、必要最低限の事しか話さない。
「ねぇ、飛雄…」
「……なんだよ」
「一週間後に…日本を出るから」
「そーかよ」
「それだけ?頑張れとかないの?私がいなくなって寂しいとか思わないの!?なるほどね。飛雄には私なんか必要なかったんだね」
春乃が冷たく放った言葉に俺はハッとする。
「ちがっ……………」
「もういい!飛雄なんか知らない!」
そう言って俺の横を走り過ぎて行った春乃の目には、涙が浮かんでいた。
「…畜生………!!」
拳で壁を思い切り殴る。ジンジンと手に痛みが伝わるけれど、そんな事どうでもいい。