第10章 カッコイイこと言えないけど 【影山飛雄】
影山side
「日向ぁぁぁ!!ボゲェェェ!!」
「ギャァァァ!!」
盛大にサーブをふかした日向の頭を鷲掴みにする。
「と、飛雄!まぁいいじゃない。日向だって勝ちに出たんだし」
俺と日向の間に入ったのは俺の恋人の春乃。
日向と俺は高校を卒業してからもバレーを続けている。俺は一旦大学に進学したけど、代表に選出されてやめた。春乃は大学に行きながら俺たちの自主練に付き合ってくれる。日向も身長が少し伸びて、空中での戦い方も見つけて今は俺と同じチームでプレーしてる。
「お前、スパイクとかレシーブ上手くなってもサーブは下手くだなぁ!!」
「うぐ……。そ、それは…」
「この前だって俺の後頭部に当てるし!」
「うるさいな!ごめんって言ったじゃんか!」
「日向、飛雄!もういい加減にしないと怒るよ!」
火花を散らす俺と日向の間で春乃がプリプリと怒る。
「ごめん」
俺はそっと春乃の頭を撫でる。そうするだけで春乃は嬉しそうに頬を緩める。
「それより日向、身長伸びたよね?」
「うん。また少し伸びた」
「今何cm?」
「172?くらいかな」
「私よりも小さかったのにね」
そう言って春乃が背伸びをして日向の頭に手を乗せる。そうして日向に笑みを見せる。そんな様子を見ていると春乃が不意に俺を見た。
「飛雄も伸びたもんね」
「影山、何cm?」
「192」
俺がサラッと言うと日向が悔しそうに眉間にシワを寄せる。
「背伸びしても届かないかも」
春乃がめいいっぱい背伸びをするけれど俺の頭に手は届かない。その事に少し寂しさを感じる。
「影山縮め!」
「アホか、無理に決まってんだろ」
「ぐぅぅ〜」
日向を上から見るのは小気味いい。たまに下痢ツボを押してやる。
「あ、飛雄!そろそろ帰らないと」
春乃が俺のジャージの裾を引っ張り、帰ろうと促す。
「そうだな。日向、帰るぞ」
春乃と日向と一緒に歩いて帰る。坂の下商店で肉まんを買って食べる。
「うまぁ!これの味はいつまでも変わらないなぁ!」
日向が目を輝かせながら肉まんをムシャムシャと食べる。
「美味しいね。ね、飛雄。飛雄の中華まん一口頂戴?」
「ん」
俺が一口食べた中華まんを春乃の口の前に持っていく。