第4章 家族になろう 【黒尾鉄郎】
家に帰って、今日言われたことを考える。
春乃は生きたいと言った。もちろん俺も生きていて欲しいと思う。けど、どこかで恐怖を感じている自分がいるのも確か。もしその手術が失敗したらどうしよう。そう思ってる。けど、手術をしなくても春乃がいなくなるかもしれないのは同じだ。なら生きれる確率がある方がいい。あいつだってそれを望んでる。何もしないよりは、少しでも希望のある方に挑戦したい。これはよく春乃が言っていた言葉だ。どんなに壁にぶち当たっても、諦めずに希望を探していた。病気がわかった時だって、あいつは落ち込まなかったし、希望は捨てなかった。どんなにしんどかろうが俺たちには笑って大丈夫だと言っていた。そんな芯の強い春乃は凄いとも思うし、愛しいとも思う。春乃を失うなんて考えられない。考えたくない。でも、どちらかにかけることしか道が無いのなら、俺はあいつがしたいようにして欲しい。後悔しないようにしたい。してほしくない。だから俺はあいつに何かしてやりたい。いつも俺に笑顔と愛をくれた春乃に。俺も覚悟を決めよう。
愛する春乃のために。
次の日の昼。病院から春乃の容体が急変したと電話があった。俺は急いで病院に向かった。春乃の部屋に入ると、看護師の方が今はもう落ち着いていると聞いた。
丸椅子に座り、春乃の手を握る。目が覚めるように願いながら。
「まだ死ぬんじゃねぇ。俺はお前に言いたい事があるんだから………」
しばらくして春乃が目を覚ました。
「鉄郎………?」
「気分はどうだ?」
「平気…」
そう言って弱々しく笑う春乃の姿に俺の心は締め付けられる。
「鉄郎、私怖いよ。自分の命が病気に吸い取られてる気がするの」
「春乃……………」
「どうしよう、明日死んじゃったら。まだ鉄郎と話したい事たくさんあるのに………怖いよ」
そう言って、涙を流す春乃。その小さな肩をそっと撫でてやる。
「春乃……。俺はお前を支えたい。俺がくじけそうな時、お前がしてくれたように。今度は俺がお前の支えになる」
「鉄郎………」
「お前は1人で戦ってるんじゃねぇよ。俺や研磨、猫駒のやつにお前のご両親。周りにはいっぱいお前を支えてくれる人がたくさんいる」