第4章 家族になろう 【黒尾鉄郎】
黒尾side
今日も病室のドアをノックする。ドアの向こうから返ってきたのは、優しさを含む声。病室に入るとベッドの上で優しく微笑む君の顔。
「おはよう、鉄郎」
「おう、おはよ。体調はどうだ?」
俺は荷物を棚に置き、ベッドの側の丸椅子に座る。
「今日は調子がいいんだ」
そう言って、笑う春乃。今日も昨日と変わらない笑顔。
「そうか。良かった」
「あ、そうだ。昨日、研磨が来たの」
「研磨が?珍し」
「私もビックリしちゃった」
「研磨、なんか言ってた?」
「頑張って病気治してねって」
「そうか。あいつらしいな」
「研磨からもらったりんご食べる?」
「お前が食べろよ」
「私は桃食べたからいい。そこのカゴのりんご取って」
俺はりんごを春乃に渡し、それを春乃が果物ナイフで皮を剥いていく。その様子を見ながら俺は春乃が倒れた時のことを思い出す。春乃が倒れたのは半年前。心臓の病気で、即入院だった。今は順調に回復してきているけどいつまた倒れるかわからない。
「はい、どうぞ」
春乃が差し出した皿には真っ赤なウサギが並んでいる。
「なんでウサギ?」
「可愛くない?」
「まぁ、そうだけど」
そのウサギの形をしたりんごを取って食べる。甘くて美味しい。
「美味い」
「美味しい?よかったね」
「おう。研磨に言っとかないとな」
ムシャムシャとりんごを食べる俺を見て、春乃が笑う。しかしその笑顔はすぐに消え、真剣な表情に変わる。
「あのね、鉄郎。話があるの」
「なんだよ」
「…私、一か八かで手術受けようと思ってる」
「手術、心臓のか」
「うん。成功する確率は低い。けど、かけてみたいの。私はこのままここで命を終えるより、少しでも生きる道を選びたい」
春乃の話を静かに耳に入れる。
「私は生きたい」
その春乃の決意。生きたいという決意を俺は受け入れた。
「ああ、そうだな。俺もお前に生きていて欲しい」
「でも、本当に危ない手術になる。だから、もっと詳しく調べてから改めて決める」
「俺も、考えとく。でも俺は春乃の選択に反対するつもりはない。それだけはわかっていてくれよ」
「うん」
「それじゃあ俺は帰るわ。りんご、ありがとな」
「ううん。それじゃあまたね」
「ああ」
俺は静かにドアを閉めた。