[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第6章 この線路は続くのか:第四期
母親が子供を諭すように、静かに鬼灯へと話しかける。
生とは、存在する私の理由だった。
死とは、不意の別れであった。
恋とは、縁遠いものであった。
大事な友人も、恋人も全て先に旅立ち、どんなに情をかけてもせいぜい数年か数十年長生きするかどうか。
私自身の出自を知る者は居らず、白澤のように特出するような生き方もせず、ただ、誰かに認識され、誰かには認識されず、誰もが知り、誰も知らない。
空気のようにいつまでも存在するだけの私であった。
あの世界では、生きた。
喜怒哀楽を全身で表現し、不条理に泣き、怒り、優しさに笑い、力強い愛に驚いた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も
子を抱かずに死んだ。
私はいつの時代も、いつの私も全て私であった。
私はその世界で子孫を残せぬ欠陥品であった。
それに悩み、涙したこともあったが、いつだって周囲の優しさに笑顔が自然と零れた。
それら全てが鬼灯の手の上での出来事でも、私は鬼灯を含めた全てを受け入れ、責めるつもりなど一切ない。
私が愛する者全て、私なりではあるが、全てを捧げるつもりで委ねるのが私の愛なのだから。
存在することがなくとも、私は何処かに存在し続けるだろう。
代わりが来るかもしれない。
鬼灯の為に、この役目を降りても後悔はない。
鬼灯の大きな手を自分の首へと回させる。
「今の私なら、すぐ折れちゃうね」
「や、やめろよ!」
白澤が思わず鬼灯の力なく握っただけの手を、私の首元から引き剥がした。
「そんなことして何の意味があるんだよ!」
「私は、鬼灯の嫁だから。夫の為だったらなんでもしてあげたくなっちゃうんだよ」
なんでもないと笑顔を浮かべた私を見て白澤は頭を抱えた。
もう、邪魔はしないだろう。
「珀訪、どうしてそこまでしようとするんですか。全部、全部思い出しても私を責めもせず、どうして受け入れようとするんですか」
「何故だろうねえ、わかんないなあ」
鬼灯は私を抱きしめた。
骨が折れてしまいそうなくらい、強く抱きしめ、一筋の涙を流した。
白澤は静かにその様子を見ていた、複雑そうな顔で。