[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第5章 仙桃の花の香り:第三期
「急いで珀訪!」
「はぁはぁ、長い事…外、出てなかったから…ッ」
2人は薄明るい地獄の夜闇を走っていた。
白澤は珀訪の手を引き、人目の少ない場所から桃源郷へ逃げる算段でいた。
桃源郷まで逃げ切れば当面は大事にはできぬだろう。
なんなら国外逃亡だって辞さないつもりであった。
珀訪は躓きそうになりながら、髪飾りを大事に詰め込んだ巾着を振って白澤についていった。
別に鬼灯から逃げたいなどとは思っておらず、白澤が来たときも出るつもりなどはなかった。
だが、能力を戻すために。頼むと色々な理由を出し、懇願されれば折れてしまったのだ。
白澤はスピードを落とし、振り返る。
「そろそろかな」
― ドロン
と、神獣の身体に変化し、珀訪が乗りやすいように姿勢を低くした。
「乗って!」
「う、うん」
よじのぼり跨った。
「しっかり掴まっててよ!とばすから!!」
「ん!」
ぎゅっと白くたゆやかな毛皮に掴まり、全身をピッタリとその背にくっつける。
「痛くない?」
「これくらい平気だよ!」
強い重力を感じ、勢いよく飛び立ったのを知った。
白澤とはこんなに早く飛ぶものであったろうか、珀訪は背後をチラリと見やった。
地獄の街々が小さく遠のく。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"―――――!!!!!!」
決して小さくない声がここまで届く。
「鬼灯…?」
こうして珀訪は鬼灯の小さな鳥かごから出ることと相成った。
第三期、一時終幕