[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第5章 仙桃の花の香り:第三期
時間と言うのは起きていようが、寝ていようがお構いなしに過ぎ去ってゆく。
鬼灯は相も変わらず、足繁くこの部屋にやってくる。
彼の出入りの時は必ず目を覚まし、様子を見るが扉の先には闇があるだけだった。
遮光されているのか、はたまた手を出した禁術の延長なのか。
私は知識の神ではない為、知る事は得意ではない。
けれど、鬼灯の精神状態が著しく歪んで行っていることは、顔を見るだけで想像に容易かった。
その日も仕事を終えたらしい鬼灯は私の居る部屋に来て、1日の報告をしてくれる。
外の情報はこの時の会話が全てなのだ。
「― それでお香さんの居る衆合地獄へ視察に行って、それから」
「そっか、今日もお仕事お疲れ様。さあ、もう寝よ? 殿、お布団は暖めておきました故っ!ふふ…」
「…」
黙って潜り込んでくる。
深く潜った鬼灯の頭を抱え込み、泣く子供のように私の胸に顔を埋める彼を愛おしく思った。
呼吸は安定しているのだろう、暖かな息を感じる。
縋る様に私の腰へと回され、掴まれた着物に可哀想に感じて泣きそうになった。
どうして鬼灯は、此れ程までに病んでいるのであろうか。
私しかこれを救ってやれないはずなのに、私には何も出来ることはないのだろうか。
「鬼灯い?」
「…はい」
くぐもった声が聞こえ、モゾ…と布団の中から顔を出す。
こんな所でないと見られない。
鬼灯は私を抱きしめたまま、見上げる。
私の手は鬼灯の指通りの良い髪の毛を撫でる。
「良い子だねえ、大丈夫だよ」
私達はおやすみのキスを交わした。
一方、白澤は。
「鬼灯の奴、部屋に居るんじゃないのかよ」
鬼灯の部屋へと無断で侵入していた。