[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第4章 嫁の理/鬼の業:第二期
天国とは気候がよく、皆が明るい表情で、笑い声の絶えない国である。
地獄での焦げた硫黄の匂い、亡者の懇願する叫び声、鉄のぶつかる音、獄卒の怒号。
比べると私はなんて処に住んでいるのかと思った。
が、閻魔殿の中は外の悲鳴も薄く、案外と眠り心地は悪くない。
ましてや鬼灯の部屋は異常に薄暗く、割と小奇麗にしている為、居心地自体は悪くない。
私達は天国の店が立ち並ぶ商店街のような場所へ来た。
「さあ、珀訪ちゃん。なんでも買ってあげるよお~?」
「ありがたいけど、もう大抵の物は鬼灯に買って貰ってしまったから」
「む、じゃあさ、新しい髪飾りとかどう?いっぱいあっても困るものじゃないよね」
あの時、鬼灯がくれたこの鈴なりになった鬼灯の髪飾り。
毎日のように使っているが、そう言えば髪飾りなんてこれくらいしか持って居なかったなあ。
「そこまで言ってくれるなら、いいの見立ててくれる?」
「もちろん!」
いつの間にか繋がれた手に導かれ、あれこれ色々な髪飾りを試着したり、少し疲れたら甘い物を食べたり、美しい草木を愛でながら夕刻頃まで2人で昔の様に遊びまわった。
時々、美しい女性が「白澤様ぁ~」と声をかけて来たりもしたが、挨拶を返す程度でフラフラとそちらへ行くこともなかった。
きっと現在の私の事を知っているのか、昔の私のようにフラリとどこかへ行ってしまう気質のことを懸念しているのだろう。
あの女好きの彼が、私みたいな老いぼれを一時でも優先してくれるのは、それもまた成長なのだろうか。
一応、心の中ではあるが訂正しておこう。
私は長生きこそすれ、生命の基準から外れたただ存在するだけのモノであり、年齢と言う概念などほぼ皆無である!
必要さえあれば、子供の姿にも、老婆、異性の姿にすら変化し、それを元からの姿かのように振舞うことが可能…であった。
今は出来ず、年恰好は10代後半~20代で、黒い髪をしていた。
基本的な顔つきは変えたことは記憶に無いが、髪の色や長さくらいは自由に変えていた頃が懐かしい、あれほど便利なことはなかったなあ。
今は普通に伸びる髪の毛を、お香の付き添いで床屋へ行き整えてもらっている。
鬼灯は目ざとく、ほんの2cm程度のカットですら「切りましたか?」なんて気付くので、恐ろしく感じることもしばしば。
男とはみな、こういう物だっただろうか?