[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第3章 記憶の酒瓶転がし候:第一期
世界は暗転し、暗闇に低く響く白澤の声。
「これはね、禁術なんだけど何かあった時のために覚えていてくれるかな」
「大丈夫だよ、私すっごく強いからさ」
「こんなにやわらかい女の子なのに?」
私の手を握る。
「白澤はいつも優しいね」
「珀訪だからだよ」
「うそばっかり」
「本当」
強く引かれ白澤の胸へと迎えられた。
暖かく力強いのにとても優しい腕の中。
私はしばしの練習の後、その術を習得した。
禁術とはいえ、新しい世界への切符を手に入れたおかげで私の足は更に広い世界の土を踏むことになる。
これは私にとってはとても幸福なことであったが、同時に今ある幸福を捨て去る結果へとなったようだ。
私は理解した。
この禁術は異世界すらふらりと歩いた当時の私が危険に晒されることを懸念し、白澤が授けてくれた交通手段を悪戯に乱用した私のせいで強制的に擬似転生した結果、記憶を失っていたようだ。
私は、ヒトではない。
神でも鬼でもない。
ただ存在する生命体、驚異的な治癒能力、再生能力を持っている。
この世界が終わるその時まで、存在するだけ。
白澤にとっては唯一、最期を共にできるかもしれない女性であった。
だから白澤は私を特別視していたし、放浪ブームの時期は長期で消息を絶っていたので「久しぶり」などとみんなあまり驚かずにいたのだ。
今回の擬似転生は夢ではなく、現実だが、それらは私ではなく、もう1つの私の人生であったらしい。
記憶と共に聞こえる白澤の声。
「もう何百年くらいになるかな。君が居なくなったって気付いたときは本当に驚いたよ。僕が見つけたかったけど、あいつの方が早かったみたいだね、でも、良かった」
「もう大丈夫だよ、ごめんね」
「うん、もう、いいよ」
白澤の手を掴み、下ろし、目を開くと泣きじゃくる白澤がいた。
「よしよし」
「うう・・」
昔々のように、頭を撫でる。
さて、これからどうしよう。
鬼灯はどうも、なにやらかと企んで居たようだし。
記憶とは不安定で不確かである