[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第3章 記憶の酒瓶転がし候:第一期
今までの白澤の言動からするに、私が覚えていないだけで私達はなにかしらの縁があったと推測される。
しかし、記憶には一切無かった。
小説の中だから?
「鬼灯の前だと言い辛かったんだけど、ここって小説の世界?私って夢を見てるの?」
「…プッ、あはははは!冗談うまいね~、事実は小説よりも奇なり、だよ?」
ガタンと立ち上がり、私の横に座った。近い。
優しく頬に触れた白澤の手は鬼灯よりはほんの少し小さく、鬼灯は硝煙と香の混じったような香りがするのに比べ、白澤からはふわりと桃のような甘い香りに花が混じった様な香りが漂い、私の鼻腔をくすぐった。
「なにを!?」
ビクリと身を固める
「ここは現実だよ、あいつにも少しくらいは感謝してやらないとね、おかえり、珀訪」
「え?」
おかえりってどういう意味?
現実?都合の良いだけの夢なのか、夢に絡めとられようとしているのか、厨ニ病でも患ってんじゃねえだろうなと思わずに居られない。
が、なんだろう、1人、また1人と会うごとに話すごとに関わるごとに、落ち着き、混乱していたはずの脳内がスッキリとしてゆく。
気付けば今まで現実だと思っていた学生生活の方が夢だったような、不思議な感覚に陥っていた。
「今の君は生まれて間もない赤ん坊のようなものなんだね、大丈夫だよ、僕が全部教えてあげるから」
「全部…」
白澤は私の頬に宛てていた手を皮膚に沿って動かし、私の瞼を閉じさせる。
真っ暗な世界が広がり、瞼の裏のシアタールームでは私がこの世界で生きた時のことを上映し始める。