[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第3章 記憶の酒瓶転がし候:第一期
白澤が焦った様子で私に手を伸ばした瞬間、ヒュッと風が鼻先を掠めて通り抜ける。
白澤が消えた。
― ドゴォ!!!!
白澤はどこぞの店先で椅子や傘に埋もれていた。
「今まで女性と遊びまくっていた節操のない汚い豚足で珀訪に触れないで貰えますかね」
「ほ、鬼灯?」
腰が抜けそうだ。
身体を動かせずに首だけを鬼灯へと向ける、彼は大きな金棒を振り上げていた。
まさか殺してないよね?と白澤の飛んだ方へと恐る恐る、足を踏み出してみる。
近くで覗き込むが、身動き1つしない。
「あの、大丈夫ですか?白澤s…」
「つーかまえた!逃げるよ!!」
伸ばした手を捕まれ、勢いよくガラクタと化したそれらの中から白澤は起き上がり、私を牽いて走り出す。
私は「え?え?」などと言いながらも咄嗟にそれについて走り出してしまった。
「!? 待てっ!」
鬼灯が背後から追ってきていることは分かっていたが、なんだか昔にもこういうことしたなあ。なんて懐かしいような、楽しい気分になってきた。
悪戯心が揺れ、抵抗せずに私は駆け出していた。
「こっち!」
「え、どっち!?」
地の利は白澤にあったようで、クネクネと色々な店の角を曲がる内に、鬼灯の姿は見えなくなった。
はぁはぁと肩で息をしながら、私達はいつの間にか花街の端っこへたどり着いていた。
「ふう、ごめんね~、大丈夫?」
「うん、大丈夫…はぁはぁ」
「このまますぐに店に帰ると多分すぐにアイツが来ると思うんだ」
「確かに」
「だから1度この店に入ろうか」
指差したのは休憩所と書かれた看板の茶屋のような店だった。
「いいですけど、あんまり鬼灯を困らせちゃうと悪い気が」
「いーのいーのっ、さ、入ろ~」
ぐいぐいと押されて私はその店へと足を踏み入れてしまう。