[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第3章 記憶の酒瓶転がし候:第一期
着物を着るときはあまり気にしなかったけれど、鬼灯と並んでも違和感が少ない私がいた。
私なのに私じゃない。
美しい着物、漆塗りが輝く真新しい履物、アップにした頭にはオレンジ色の美しい鬼灯の髪飾り、それより何より私の顔つきが子供ではない。
更に言うと、私ではないような気がする。
「私って、ずっとこんな顔していましたっけ?」
「? どうしたんですか」
私が立ち止まり、手を離してしまったので彼も横に並び、ガラス窓に移る私を見る。
「私ってこんな顔していましたっけ?」
「クスッ、今日は変なこと言いますね。私が知る限り、あなたの外見はずっと昔から殆ど変わっていないと思いますよ」
「ずっと?」
「ええ、私が地獄に来た頃…でしたよね」
鬼灯が死んだあの日、私はそこにいたらしい。
私は今より少し幼いくらいで、木の精と共に鬼灯を地獄へと案内したことがあるそうだ。
「それは、すごく昔だね」
「ええ、またそのうちゆっくり昔話でもしますか」
「うん」
鬼灯に手を引かれ、私は色街の門をくぐった。
瞬間「売られる」と思ったのは内緒。
冗談だけど
でも、本当に少しづつ、1歩進む毎に
一言づつ言葉を交わす毎に
今、ここにいるのが現実なんだと無意識へと浸透してゆく感じがした。
今までは頭の片隅には”この世界に溶け込まないと”と言う脅迫概念のようなものがあった。
しかし、たった数時間の間に「鬼灯」と呼ぶことへの抵抗、
携帯を覗き込んでいた日々によって培われた知識の超えられない次元感、
普段着慣れていないはずの着物へのぎこちなさ…、それらが全て幽かになってきた。