[鬼灯の冷徹]鬼神の嫁の心得[パラレル→原作沿い]
第3章 記憶の酒瓶転がし候:第一期
混乱に混乱を重ね続ける私を余所に、鬼灯…もとい、鬼灯様は私の手を優しく引いて歩いてくれた。
あのサイト上では、彼の考えていることなんて手に取るように分かったものだった。
しかし、それは作品として、読者として全てを知るからこその特権であったと痛感せざるを得なかった。
私はチラリと横目で彼の顔を見上げたが、無表情+仏頂面+無口の3コンボにより、一切の思考を読み取ることは叶わずに居た。
「・・・」
数週間の間、脳内での逢瀬は幾度となく交わしたものの、現実(?)となると初対面なのでこの沈黙はかなりの精神的HPをガリガリと削っていく。
心なしか、人の多い場所へと歩いてきたようで、ジロジロとした視線を多く感じ始めていた。
「鬼灯…様は今どちらへ向かってらっしゃるんでしょう、か?」
敬語はさほど苦手ではなかったが、巧く呂律が回らない。
自分で思っている以上に緊張が解れないのであろう。
それもそうか、まだこの見知らぬ人に出会い、見知らぬ場所に来てからほんのわずかな時間の間のことだから。
「今から貴女に危害を加えそうな奴に釘を刺しに行く処ですよ。…それより、もう”鬼灯様”なんて呼ばないでください、珀訪、私のことは呼び捨てで構わないと言ったでしょう」
ふと絡んだ視線に冷や汗がじんわりと浮いた。
そういえば、小説内では少し前に呼び捨てで構わないというやり取りをした記憶がある。
これはますます本当に次元の壁を越えたようだ。
「じゃあ、鬼灯。あの、足が…」
私は自室に居たため、靴なんて履いていなかった。
今は結構痛い、ゴツゴツした岩場を歩いてきたのだから。
しかし、血が出たりしては居ないようで、こんなに強い足だったかなと感心した。
「!? どうして履物を履いてないんですかッ!」
ガバッと私をお姫様抱っこしてくれた鬼灯の顔と距離がぐんと近づき、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの、私もよくわからなくって。」
「…いえ、私も気付かなくてすみません。よく見れば、普段と服装が随分違いますね…、現世ファッションですよね」
「それより重くないですか?私、まだ歩けますs…「ダメです」」
かぶせて却下されてしまった。
「とりあえず予定を変更して服を買いにいきましょう」
ああ、どんどん人気の多い方角へ。
子供みたいで恥ずかしすぎる!