第19章 グレーの生地【黒尾鉄朗】
「…なぜ当然の如くお前はそこにいるんだ」
練習が終わって家に帰ると、
「…ん?あれ、クロおかえり」
「いや、なんでそんな平然と返せるんだ?」
幼馴染が、さも当たり前とでも言うような顔でくつろいでいた。俺の部屋で。
しかも、ベッドの上に寝転がった美咲の身体の横に積みあがっているのは、俺の漫画たち。おそらく読みたいものと読み終わったものに分類されている。
「…ここがどこなのかご存知で?」
「クロの部屋だね」
サラッと答える美咲はというと、完全に部屋着でリラックスモードだ。
触り心地の良さそうなグレーのパーカーだとか、短パンから伸びた脚だとか、そういうものが意識に入らないようにして、俺は質問する。
「よく家に入れたな」
「おばさん喜んで入れてくれたよ」
なるほど、机には市販のクッキーと飲みかけのジュースの入ったコップがある。
美咲好きの抜けた母親のことだ、ホイホイ招き入れたんだろう。くそ。
「漫画を読むなら借りてけばいいだろ」
「だって何冊も持ってくと重いじゃん」
「何冊も持ってく前提かよ」
「それにクロのベッド寝心地いいんだもん」
『もん』ってなんだ、『もん』って。
こんな我儘キャラだったっけか?と思いながらも、仕方なしに折れる。
「…分かった、ご自由にどーぞ、お嬢様」
俺はドサッと重いエナメルバッグを下ろして、今月号のバリボーを読み始める。
いつもならベッドに座って読むが、今日はあいにくの満席だ。
床にあぐらをかいてパラパラとページをめくる。