• テキストサイズ

【ハイキュー!!】青春飛翔論

第13章 君は全く似ていなかった【武田一鉄】



昔ーーと言っても、僕がまだ大学生だった頃。
大切な女性がいた。
死ぬほど彼女が好きだと、その時の僕は心の底から思っていた。

彼女はとても綺麗な人だった。
肩まで伸ばした緑の黒髪を耳の横でゆるく束ねて、いつもほのかに甘い香りを漂わせていた。
肌は白く、小さな鼻、たれ目ぎみの目。彼女は小柄な僕よりも、小さな身体だった。
控えめだけど、社交的で、誰にでも優しい。気配り上手で、聞き上手。手芸が好きで、子供が好き。
彼女は外国の子供達に勉強を教えるのが夢だった。僕も当たり前のように、それを応援していた。

『私…アフリカに行きたい』

彼女のその言葉は、あまりに突然すぎた。
ボランティア先が見つかったようだった。
夢を叶えるための片道切符、と言っても過言ではない。人生を大きく変える決断。
しかし、それは同時に別れを意味している。それを分かって、彼女はこの話を持ちかけてきた。
そして、

僕らは互いの夢を選んだ。

死んでしまうと思った。
彼女がいない日々なんて、ただの生き地獄だと思った。

けれど現実は優しくて、残酷で。
彼女がいなくとも、無慈悲なほどに止めどなく時間は流れる。社会の歯車は何事もなかったかのように回り続ける。
彼女の存在が、色々なところから消えていくのが肌で感じられた。
彼女の部屋には新しい住人が入り、サークルで彼女が担当していたホルンのパートには別の子が担当するようになった。
彼女のいた場所が侵食されていく、消滅していく。そう、跡形もなく。

そして、過ぎていく日々の中で、
ゆっくりと彼女を忘れていく。
ゆっくりと彼女のいない日常に慣れていく。
生きていけないと思っていた、彼女のいない世界で、僕はしっかりと呼吸を繰り返していた。

/ 143ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp