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【ハイキュー!!】青春飛翔論

第11章 雨、止みませんね。【赤葦京治】



「日本人は雨にいろんな名前をつけて…村雨、時雨、春雨、五月雨……。天泣なんて素敵じゃない?」
「天が、泣く」
「そう、天が泣くの」

吐息交じりに紡がれる言葉が、一つ一つ綺麗で。
ちらりと彼女を盗み見る。
桜色の唇は微笑みをたたえ、目は優しく細められている。

「名前だけじゃなくてね、例えば夏目漱石も雨で素敵な表現をしたの」

すぅ…と彼女が空気を吸う。は、と吐き出された息とともに、

「『雨、止みませんね』で、『もう少し傍にいたいです』って」


ーーああ。理解できる。
赤葦はそっと瞼を閉じた。
視覚を遮断すると、音がより鮮明に、繊細に身体の中に流れ込んでくる。
ぽつりぽつりと降る雨。時折、大きな雨粒が当たる音。そして隣の彼女の呼吸の音。


「ーー雨、止まないな」

目を開けると、少し明るみかけた空が目の裏に映る。
分厚かった雲の隙間から、青が見えた。

「…そうだね。このまま、止まなければいいのに」

雨音はだいぶ止み、今は霧雨ぐらいになっている。
開いている傘の数も減ってきた。
ただの通り雨だったのかもしれない。

「…それも夏目漱石が言ったのか?」
「ううん…これは、私の、かな」

そう言う彼女の頬は、ほわりと赤みがさしている。
ねぇ、赤葦くん。彼女はこちらを覗き込むように見上げて、

「一緒に、帰ろう?」
「…そうだな」
「遠回りして…月を見て帰ろう」



きっと、今日は綺麗な月だよ。



うん、そうだな。
赤葦は美咲が絡ませた手を、きゅっと握った。





『雨、止みませんね。』おわり
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